多焦点眼内レンズは
遠近両用眼鏡や
遠近両用コンタクトレンズとは
構造が違う
患者さんたちから、「多焦点眼内レンズの見え方は、遠近両用メガネと同じでしょうか?」あるいは、「多焦点眼内レンズの手術後も、遠近両用メガネと同じように、近くを見る時には視線を下に向けなければいけないのでしょうか?」という質問を受けることがあります。
こうした質問の背景には、遠近両用メガネを使っていた際に、手元が見えづらく、視線の位置に工夫が必要だったというご自身の体験があるようです。遠近両用メガネでは、視線の上下によって焦点が合う距離が変わるため、近くを見るには意識的に視線を下に落として、レンズの下部で見る必要があります。その不便さから、多焦点眼内レンズにも同じような制約があるのではないかと思われる方が少なくありません。
実際には、多焦点眼内レンズは、遠近両用のメガネとはまったく異なる仕組みを持っています。
遠近両用メガネは、レンズの上方と下方に、2つの焦点の異なるレンズを貼り合わせたような構造になっています。そのため、遠近両用メガネは遠くを見る時は真っすぐ正面をむき、近くを見る時は視線を下に下げなければいけません。メガネの上の方は遠くにだけ、下の方は手元にだけしか焦点があっていないためです。
それに対し、多焦点眼内レンズは、すべての距離の光が目の中に入る仕組みになっており、遠方・中間・近方の距離のすべての距離について、視線を変えなくても焦点を合わせることができます。
つまり、多焦点眼内レンズは、遠近両用メガネとは全く異なる原理でさまざまな距離に焦点があるように機能します。
また、多焦点眼内レンズを使用した手術では、白内障だけでなく、近視、遠視、乱視といった屈折異常と、老眼の両方を同時に改善し、まるで「視力のいい若者」のように、視線の方向を変えることなく、自然に遠くから近くまで様々な距離が見えることを目標にすることができます。
遠近両用メガネのように、新聞やスマホの文字を見るときに下を見る必要もなければ、カーナビのように前方にある近くの文字を見る時に、メガネを上にずらして、レンズの下方で無理に正面を見る必要もありません。
したがって、遠近両用メガネがどうしても合わなかった人こそ、多焦点眼内レンズ手術が最善の選択肢になります。
それとは別に、乱視の強い人が、「乱視用のメガネを作ったら、床が近づいてように見えた」という経験をすることがあります。確かに乱視の強い人が乱視用のメガネを始めて作った場合には、「床が浮いて見える」ように感じることがあります。しかし、乱視用の多焦点眼内レンズは、床が浮いて見えるようなことはありませんので、乱視が強い場合も、多焦点眼内レンズ手術が良い選択肢になります。
また、遠近両用のコンタクトレンズも、多焦点眼内レンズとは全く違う構造です。
遠近両用のコンタクトレンズの構造はいくつかの種類がありますが、基本的には遠くに焦点があっている部分と手元に焦点が合っている部分があり、視線をずらすことで手元と遠くの距離を見ることになります。
遠近両用のコンタクトレンズの場合も遠近両用メガネと同じように、レンズの一部の場所は遠くにだけ合っていて手元に合っておらず、ある場所は逆に手元にだけ合っていて遠くには合っていません。視線を変えることで遠くと手元を見ることになりため、常に両方が同時に見えるものではなく、見えにくい時には視線を変えて見える角度を探したり、何度も瞬きをしてコンタクトレンズの位置を変える必要があります。
その結果、一般的に遠近両用のコンタクトレンズの見え方の質は高くないために、多くの方が遠くか手元、場合によっては両方の距離がはっきり見えないことから、遠近両用でないコンタクトレンズに戻したり、コンタクトレンズの使用を諦めてメガネにすることがあります。
それに対し、多焦点眼内レンズを用いた白内障手術では、遠くと手元に同時に焦点を合わせることができます。遠近両用のコンタクトレンズのように、見えるまで視線を変えたり、瞬きをする必要はありません。
多焦点眼内レンズを用いた白内障手術では老眼を解決することができますが、遠近両用のメガネやコンタクトレンズでは老眼を完全に解決することはできません。遠近両用コンタクトレンズで見えにくかった方も、積極的に多焦点眼内レンズによる手術を検討してください。


